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(7) 民事再生についてのよくある疑問


(イ) 経営者の地位はどうなるのか
(a) 法人が民事再生の申立をしても、原則として、現経営者は従前どおり経営権を遂行することができ、業務財産の管理処分権を有します。
(b) しかし、現経営者が不誠実な経営を行っていた場合など、経営破綻に関する現経営者の責任が重大な場合には、現経営者が従来どおり経営を行っていたのでは、債権者・取引先、従業員などの理解を得られず、再建が困難となることから、自主的に辞任すべき場合があります。自主的に辞任しなくても、利害関係人の申立や裁判所の職権により、保全管理人・管財人が選任されて、現経営者が退陣を強制されることもあります。
(c) また、スポンサーの子会社となる場合や、スポンサーに事業譲渡を行う場合には、現経営者は退陣することになるのが通常です。
(d) 代表者が法人の債務につき連帯保証している場合には、法人の再生計画が認可されても、代表者個人の連帯保証債務は影響を受けないことから、債権者から履行を求められますので、代表者個人の債務整理も考える必要があります。債権者との間で弁済協定が締結できればよいですが、それができない場合は代表者個人につき自己破産をせざるを得ないことが多いといえます。ただし、自己破産をしたことは取締役の欠格事由ではないため、経営陣にとどまることは可能です。
(ロ) 申立日はどのように決定するべきか
申立日を決定するにあたっては、次のような点を考慮することになります。
(a) 手形の満期日
手形が不渡りになると、再建は事実上不可能になります。
ですので、手形が不渡りとなる前に民事再生の申立を行って、弁済禁止の保全処分を発令してもらう必要があります。
東京地裁では通常、申立日に発令してもらえるので、最悪、満期日の前日までに申立をすれば間に合うことになりますが、他の裁判所では申立をしたその日に必ず発令してもらえるとは限りませんので、事前相談を活用して確認をしておくべきです。
(b) 資金繰り
手元資金の少ない時期や、その後の入金予定が少ない時期に申立をすると、申立後の資金繰りが行き詰まることがあります。
この点、申立をしたことを債権者に通知すれば、その通知を知った後に申立人に対して取得した反対債権をもって相殺することができません。
このことを利用して、銀行口座への入金予定日の直前に申立を行い、直ちにこれを当該銀行に通知(FAXでも結構です)すれば、当該銀行に借入があったとしても、通知後の入金(通知前の預金は相殺を免れません)については相殺されずに、これを引き出して資金繰りに利用することが可能になります。
(c) 債権者・取引先への影響
申立により債権者・取引先に甚大な被害・迷惑をかけてしまうと、その後の再建に理解を得られなかったり、取引を中止されることもあり得ますので、申立日の決定に際しては、この点も注意すべきです。
(ハ) 申立にあたって資金準備はどうするか
(a) 申立直後から借入や手形の割引はできなくなる上、仕入れに際しては現金前払いの決済を要求されるのが通常です。
したがって、当面の資金繰りに必要な運転資金を手元にいつでも使える形で用意しておく必要があります。
必要な手元資金を予測するために、申立後の日繰りの資金繰り予定表を作成してみることが重要です。
(b) 申立に際して必要となる予納金や弁護士費用については、当座預金・定期預金・通知預金では直ちに引き出すことができませんし、普通預金でも申立日当日や前日に全額を引き出せるとは限らないため、余裕をもって現金化しておくか、代理人弁護士に預けておくことが無難です。
(c) 当面の運転資金については、借入をしていない金融機関に用意しておくべきです。
借入のある金融機関の預金口座については、申立前の預金は相殺され、申立後になされた入金についても口座が事実上凍結され、すぐに引き出して使えない場合もありますので、注意する必要があります。
そのため、売掛金などの入金口座につき、借入のない金融機関の口座に振り込むように売掛先に依頼する必要があります。
(d) 尚、借入をしている金融機関の口座から申立直前に多額の預金を引き出すと、金融機関に申立を勘付かれるか、警戒されたり、あるいは、当該金融機関から再建について理解を得られなかったりする可能性もありますので、注意が必要です。
また、申立前に売掛先に入金口座変更の依頼をすると信用不安が広がる場合もありますので、注意が必要です。
(ニ) 申立前に株主に説明を行う必要性はあるか
申立前に株主総会決議を経る必要はもちろんのこと、株主に説明を行う必要もありません。
株主総会決議や株主に対する説明は法律上要求されていない上、事前に説明を行うことにより、申立を行うとの情報が流出してしまい、信用不安を引き起こし、再建に支障が生じることがあるからです。
(ホ) 申立前の情報管理について
民事再生の申立を準備している段階で債権者に情報が流出してしまうと、信用不安から債権者の取り付け騒ぎなどの混乱が生じ、再建に支障が生じることがあります。
ですので、申立の準備をしている段階では、次のような点に注意することが重要です。
(a) 申立の情報の開示と準備作業の担当は、特に信頼できる経理担当者など最小限の者に限定する。
(b) 資料の保管についても、必要最小限の関係者以外アクセスできないようにする。
(c) スポンサー候補者との間で交渉している場合は、相手方と秘密保持契約を締結する。
(d) 申立後の作業・対応に関する指示は、できる限り申立後に行うようにする。
(ヘ) 申立前に大口取引先や金融機関に説明を行う必要性はあるか
再建にあたっては、取引の継続や再生計画についての同意などさまざまな場面で債権者の協力が必要となることから、特に大口取引先や金融機関には事前に説明をしておいた方が、以後の再建についての協力を得る上で有益な場合があります。
しかし他方で、情報が流出してしまい、信用不安から債権者の取り付け騒ぎなどの混乱が生じ、再建に支障が生じるリスクもあります。
したがって、事前説明を行うかどうかについては、取引先や金融機関との関係等の諸事情を考慮した上で、慎重に判断することが必要です。
(ト) スポンサーと事前に交渉を行う必要性はあるか
(a) 業種によっては、民事再生の申立により事業の価値が急速に低下し、スポンサーにとって再建に協力する魅力がなくなってしまう場合がありますので、申立前からスポンサー候補者を探しておくか、または、既にスポンサー候補者がいる場合には、事前に説明しておくことが重要です。
(b) スポンサーによる協力の方法としては、融資、資本参加、手形割引などの方法による資金援助、事業譲渡、業務提携などさまざまなものが考えられます。
(c) スポンサーと事前交渉する際には、機密保持の観点から、秘密保持契約を締結しておくべきです。
(チ) 申立後の現場対応について
申立直後から、債権者の取り付け騒ぎや問合せの殺到などで現場が混乱することになるため、申立後直ちに現場と連絡を取って、以下のような保全措置をとる必要があります。
(a) 通帳、印鑑、事務所・倉庫の鍵などの管理。
(b) 伝票・帳簿を締め切る。
(c) 銀行に対する自動引落の停止依頼。
(d) 商品・原材料などの確保。
申立人が仕入れた在庫商品・原材料などについて債権者から返還請求がなされることが予想されます。
この場合、申立直後の時期はいったん債権者の返還請求を全て拒否し、落ち着いたころに債権者と個別に対応することになります。
具体的には、在庫商品・原材料などが債権者の所有物であるため、本来申立人が債権者に返還しなければならないものの、その在庫商品・原材料などが申立人の事業の継続に必要であり、かつ、その在庫商品・原材料などを利用することが債権者にとってもメリットがあるといえる場合には、債権者と交渉して、債権者からの引渡請求を拒否することが必要となります。
申立人の事業にとって必要のないものについては、債権者に速やかに返却することになるでしょう。
(e) 債権者から送付される相殺通知書、期限の利益喪失通知書、契約解除通知書、債権譲渡通知書などの書類の一元管理。
(リ) 従業員に対する説明について
従業員の協力が再建にとって必要不可欠であることは言うまでもありません。ですので、申立直後から、従業員に対する説明を行い、従業員との信頼関係を構築する必要があります。
ただし、今後のリストラの方針など必ずしも確約することのできないこともあるため、説明の仕方には注意する必要があります。
また、従業員から不用意に社外に情報が流出しないよう、この意味でも説明の仕方や情報管理にも注意する必要があります。
債権者・取引先などとの対応の方法についても具体的に指示しておく必要があります。
(ヌ) 申立人との取引に依存している業者に対する手続開始前の債務の支払はできるか
申立前に発生した債務については弁済を禁止され、債権者としては再生計画による弁済を待つほかないのが原則です。
しかし、このような原則を貫くと、申立人との取引に依存している業者の資金繰りに多大な影響を与えることとなり、連鎖倒産を引き起こしてしまう危険性さえあり、再建にも重大な支障となりかねません。
そこで、申立人に対する依存度が20%を超えるような中小企業者であって、債権の弁済を受けなければ事業の継続に著しい支障を来たすおそれがある場合には、裁判所の許可を受けることによって、弁済を認められる場合があります。
裁判所の許可は、申立人の資金繰りなどの事情も考慮した上でなされることになります。
(ル) 民事再生の申立や再生手続開始決定を理由としてリース契約は解除されるか
リース契約書には、民事再生の申立を理由とする契約解除条項が規定されていることが多いですが、判例上、このような条項の効力は否定されています。
したがって、リース会社から民事再生の申立や再生手続開始決定を理由として、契約解除がなされても、そのような解除は無効です。
ただし、リース料の支払をしなければ、債務不履行解除されてしまいますので、必要なリース物件については、リース債権を共益債権と扱うか、別除権付債権と扱うかにより若干の相違はあるものの、いずれかの方法でリース物件を使用継続できるようにします。
(ヲ) 事業の継続に必要不可欠な資産に設定された担保権の取扱について
(a) 弁済禁止の保全処分や再生手続開始決定が発令されても、担保権の行使は手続とは関係なく、自由に行うことができますので、担保権を実行されないように、担保権者との間で弁済協定を締結することになります。
弁済協定の内容としては、申立人が少なくとも担保物件の時価相当額以上の金額を分割弁済することを条件に、担保権者は担保権の実行をしないという内容になります。
(b) 担保権が実行された場合には、担保権実行手続中止命令という制度があり、これにより一時的に担保権の実行を中止させることができますが、一般に3か月程度しか中止されないため、効果としては限定的です。
(c) また、担保権消滅請求という制度があり、担保物件が事業の継続に必要不可欠な場合は、当該物件の時価相当額を裁判所に納付して担保権を消滅させてしまえる制度です。この場合、時価相当額を一括して裁判所に納付しなければならないため、スポンサーからの資金援助がある場合の利用に限定されるでしょう。
(ワ) 保証人や物上保証人に対する影響について
再生計画が認可されて、債務の一部免除と分割払いが認められることになっても、債権者が保証人や物上保証人に対して有する権利には影響が及びません。
そのため、主債務者が民事再生の申立を行うと、債権者から保証人に対して請求がなされることになりますので、保証人としても負債額が過大なものである場合には、債務整理手続を検討することになります。
物上保証人としては、担保権を実行されないように、担保権者と交渉することになります。
(カ) 民事再生の弁済率・弁済期間について
(a) 弁済率(債務の免除割合)の上限については決まりはありませんが、下限については、破産した場合に予想される配当率(破産配当率)よりも高くなければならないという制限があります。実務上は、弁済率30%未満の事件が多数を占めるようです。
(b) 弁済期間については法律上、最長で原則10年という制限があります。実務上は、弁済期間が長くなればなるほど、債権者の同意を得にくくなる傾向があります。
(ヨ) 実務上、再生計画案はどの程度可決・認可されているのか
東京地裁では、申立がなされた全事件のうち、再生計画案が可決・認可されたケースは全体の7割強にのぼるといわれています。
再生計画案が債権者集会で否決されるケースは東京地裁の場合で8%程度、東京地裁以外の場合で1~2%程度といわれています。
その他の事件では手続の廃止、取下げ、棄却などにより終了しています。
このように、統計的には、申立がなされた事件のほとんどについて、再生計画案が可決・認可されているといえます。
(タ) 再生計画における弁済条件につき債権者間で差異をつけることはできるか
(a) 再生計画は債権者間で平等になるように定めなければならないとされているため、原則として、債権者間で弁済条件に差異をつけることはできません。
(b) ただし、例外的に、(a)不利益を受ける債権者の同意がある場合と、(b)少額の債権などについては、弁済条件に差異をつけることが認められています。
(c) 少額の債権について差異を設ける方法としては、例えば、50万円以下の債権については全額弁済することとし、50万円以上の債権者も50万円を超える部分を放棄することにより、50万円までについては全額の弁済を受けられると定めることがあります。これにより少額債権者の同意を得やすくなるというメリットがあります。
(d) また、特定の債権者間で差異を設けるのではなく、債権額に応じて弁済率に差を設けることは認められています。
具体的には、債権額のうち、50万円未満の部分は全額弁済、50万円以上100万円未満の部分は40%弁済、100万円以上300万円未満の部分は20%弁済、300万円以上の部分は10%弁済というように、弁済率をスライドさせる方法です。これにより少額債権者の同意を得やすくなるというメリットがあります。